研究テーマ

大気中の有機分子の安定同位体組成の計測・解析

大気中には、様々な有機分子が微量成分として存在しています。それらの中でも反応性が高い有機分子は、存在がpptからppmオーダーと極微量ながらも、大気化学反応を通じて大気環境に多大な影響を及ぼしてい ます。大気中の有機分子がどこから来て、どのような大気化学反応に関与し、どこに消えていくのかを、安定同位体組成を計測・解析することで明らかにする研究を行っています。 これまで、温暖化ガスとして知られているメタン(CH4)について、水素・炭素安定同位体組成を計測・解析し、CH4の発生源の特定や各発生源の相対的な寄与の見積もりを行ってきました。 最近では、人体に有害であるだけではなく、大気質や気候に影響を与えるとされる、揮発性有機化合物(VOCs)の発生源や大気反応過程を明らかにする研究に取り組んでいます。



食品・飲料中の有機分子の安定同位体組成の計測・解析

食の安心・安全や価値保証の観点から、食品・飲料中の有機分子が天然物か化学合成物か、産地はどこか、を化学的に判別する方法の開発を行っています。

右の図はエタノールの原料の写真と原料の違いによる安定同位体比の差をグラフに表したものです。同位体比の違いで産地が判別できることが分かります。



代謝有機分子の安定同位体組成の計測・解析

血液、尿、呼気などのヒト生体試料には代謝物として様々な揮発性有機化合物(VOCs)が含まれています。それらのいくつかは特定の代謝と関連しており、その代謝に変化を引き起こす疾患や生理学的状態を反映するバイオマーカーとしての利用が期待されています。 特に、尿や呼気中のVOCsは、健康状態のモニタリング、病気の発見、治療効果の予測等に対する新たな、非侵襲的な方法を提供する可能性から注目されています。 これらVOCsの安定同位体組成の変動を計測・解析することで、代謝の異常を鋭敏に検知できる可能性があることがわかってきました。この代謝異常の検知による、あたらしい疾患診断方法の開発を目指しています。

右の図は呼気、尿中のアセトンを測定する方法の模式図です。アセトンの炭素安定同位体比を測定することで、グルコース代謝の変化を測定できる可能性があります。



有機分子の安定同位体組成の計測法の開発

複雑な有機分子の混合物から極微量の目的有機分子を取り出し安定同位体組成を計測する方法の開発を行っています。 また、これまでは有機分子の全体値を計測(例えば、炭素同位体組成であれば、有機分子を構成するすべての炭素を一まとめにして計測)していましたが、1つ1つの構成元素について同位体組成を計測する方法の開発を行っています。 この計測方法を用いることで、より詳細な有機分子の起源・反応履歴情報を読み取ることが可能となります。 このような計測技術を基盤にして、上述した様々な環境での有機分子の起源・反応履歴を明らかにする研究に取り組んでします。